Googleストリートビューと郵便システムの問題点

Googleストリートビューによって明らかになったことの1つに、「住所」を他人に気軽に公開してはならないということがある。「住所」とGoogleストリートビューを組み合わせれば、「家族構成」や「年収」・「車の車種」などの重要な個人情報が推定できる。つまり、「家族構成」「年収」と同程度の慎重さをもって、「住所」という個人情報は扱わなければならない。

ところが、多くの人は「住所」を様々な相手に公開している。それはなぜだろうか?1つの理由は、「住所」から「家族構成」などを推定するには、現地に出向く必要があり多大なコストがかかるので、あまり問題となる例が少なかった点である。だが、Googleストリートビューにより、このコストは非常に小さくなった。もう1つの理由は、「住所」を公開しないと生活を送る上で非常に不便なためである。

人が「住所」を公開する目的の多くは料金表や年賀状などの郵送物を受け取るためである。しかしながら、郵送物を受け取るだけならば、「住所」を公開する必要はない。私書箱や局止めなどを使えば、「住所」を相手に伝えなくても、郵送物を受け取ることが出来る。ただ、これらの手段は個人用ではあまり普及していないように思える。

技術用語で語ると次のようになるだろうか。郵便システムには「私書箱」と「住所」という2つのプロトコルがある。「私書箱」の方がセキュアなプロトコルだが、殆どの人が「住所」を使っている。「住所」は脆弱性潜在的にかかえていたが、その脆弱性を利用するには非常なコストがかかるため大きな問題となることはなかった。ところが、Googleストリートビューを使えば、低コストで「住所」の脆弱性を利用することができるため、「住所」を郵便システムで利用する際の危険性が高くなった。

この問題の原因はGoogleストリートビューではなく、現在の郵便システムそのものにある。Googleストリートビューはきっかけにすぎない。しかしながら、非常に大規模かつ重要なシステムである郵便システムを改修するのは簡単ではない。そのため、Googleストリートビューを使って郵便システムの脆弱性を利用する例が増えた場合、非難されるのは郵便システムではなく、Googleストリートビューとなるだろう。

ここからは妄想になるが、いっそのこと、Googleがセキュアな郵便サービスを提供してくれたら面白いのにと思う。封筒の宛名に郵便アドレス(foo@post.gmail.com)を書いてコンビニでだせば、宛名も住所も書かなくても相手に届くようなサービスである。住所と違って、郵便用の単なる識別子なので、引越ししてもアドレスは変わらないし、信用できない相手には一定期間後に破棄される捨てアドレスを渡すことも出来るなど、現在の「住所」より格段に便利で安全なプロトコルである。このような郵便サービスが普及していれば、Googleストリートビューが非難されることは少なかったと思う。

まとめると、Googleストリートビューは郵便システムが抱えている問題点のリスクを飛躍的に高める。これは、Googleストリートビューそのものの問題ではなく、郵便システムが抱える問題である。しかしながら、郵便システムを修正することは難しいため、リスクが高まることに対する非難はGoogleストリートビューに集まる可能性が高いと思う。